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NHK『風、薫る』「いい人でなければ死んでもいいのですか?」の問いに反響。バーンズ好演のエマ・ハワードとは何者か

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見上愛、上坂樹里がW主演を務める連続テレビ小説『風、薫る』。田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社、2023年)を原案としたオリジナル作品で、激動の明治、看護の世界に飛び込んだ二人の“トレインドナース”を描く本作。

「登場してから俄然面白くなった」と言われるのが、看護婦養成所にあらわれたスコットランド出身の教師・マーガレット・バーンズ(エマ・ハワード)だ。

【画像】尋常ではないバーンズ先生

登場から尋常ではなかった

登場の瞬間から、バーンズは尋常ではなかった。生徒の前に立つなりネイティブの英語でまくし立て、誰の紹介も受けないまま一人ひとりの名前と顔を言い当ててみせる。種明かしはない。だが、入学後の宿題「What is nursing?(看護とは何か)」の答えが「observe(観察)」だったことを思えば、答えは知れる。観察によって、彼女はすでに生徒たちを“見て”いたのだ。

日本語がわからないフリで説明を省き、ベッドメイキングや掃除を繰り返しダメ出しする――その理不尽の一つひとつが、生徒自身に「なぜ」を考えさせる仕掛けだった。手取り足取り教えるのではなく、観察する目を育てる。

実習編に入ると、その“フリ”は別の意味を帯びる。帝都医科大学附属病院では、医師たちは看護婦見習いを「看病婦」と一段下に呼び、何か問題が起きれば看護婦のせいにしようとする。バーンズが日本語をあまり話せないフリを通すのも、そのほうが都合がいいからだ。言葉が通じないことを盾に理不尽な指図をかわし、見習いが矢面に立たされそうになれば、その前にすっと立つ。

乳がんで入院した和泉侯爵夫人・千佳子(仲間由紀恵)の担当にりん(見上愛)が指名されたときも、反対した。難しい患者を見習いに押しつけ、何かあれば責めを負わせる算段を、見抜いていたからだ。こうしてバーンズは、生徒たちを守る防護壁になっていく。

その一方で、当のりんが「やりたい」と申し出て、直美(上坂樹里)がそれを後押しすると、バーンズは引き下がり、信じて任せる。守るべきは守り、託すべきは託す。事実、りんはやがて、固く心を閉ざしていた千佳子の信頼を勝ち取っていく。厳しくもあたたかい「師」の顔が、ここにある。

容赦なく突きつけた「いい人でなければ死んでもいいのですか?」

それが最も鮮やかに表れたのが、今週(第10週)の展開だ。ゆき(中井友望)とトメ(原嶋凛)が担当する患者・小野田(宮地雅子)が危篤に陥る。意識が混濁したまま目を覚ました小野田は、遠方の娘の名を呼ぶ。トメはとっさに娘のフリで応じ、「どちら様で?」と問われたゆきは娘の友人のフリをする。その夜、ゆきは寝ずに看病し、翌朝、小野田は「ゆきさん、娘を……」と言い残して息を引き取った。

ゆきはその後、食事ものどを通らなくなり、3日間、実習を休んで床に伏せる。そこへ現れたバーンズは、声をかけるなり乱暴に布団をはぎ、ほかの生徒に告げる。「今からここで授業をします」。休んでいる理由を問われたゆきは「耐えられないからです。小野田さんがいなくなったことが」と答える。だがバーンズは退かない。「いなくなったのではありません。心臓の病で亡くなったのです」。ここに来たときには、もう助からないとわかっていたはずだ、と。

涙ながらにゆきは打ち明ける。いつ亡くなるかわからない人を看護するのが怖かったこと、小野田がいい人で、会うたびに好きになってしまったこと。そして、看護は人を助けるだけでなく見送る仕事でもあり、何もできずに見送るほうが多いと実習で思い知った、と。バーンズが返した「いい人でなければ死んでもいいのですか?」の一言は、看護という仕事の前提を容赦なく突きつける。

バーンズは、同じく小野田を担当したトメに水を向け、あえて英語に切り替える。「トメはおもてに出さないだけで、つらくないわけではありません。耐えることと、つらいと思うこと。この二つは別の話です」。

促されたトメが口を開く。一番上の兄を労咳で亡くしたこと。皆で懸命に看病したのに助けられず、「悔しくて悔しくて、敵をとってやろうと思って」看護婦を目指したこと。かつて医師を志した多江(生田絵梨花)は、それを聞いて「志が違う」と見下したことを悔いる。だが当のトメは笑う。「敵討ちは志高くもねえ、病気さ、逆恨みだ」と。志の高さで人を測った多江を、トメの言葉が軽々と越えていく。

そのうえでバーンズは、ゆきに向き直る。「看護の人は、いえ、医療の仕事に就く人は、人を助けたいと願い、勉強や訓練を重ねるのに、これから先、助けられない瞬間はもっと訪れます」。そして、この実習で生まれた課題に、あなたなりの答えを出してほしい、と。突き放すでも慰めるでもなく、問いをゆき自身の手に返したのだ。

“辞める”生徒を引き止めない

ところが、である。特別授業を終え、ゆきは実習に復帰する――と思いきや、校長への挨拶を済ませて出てきた彼女は、看護婦になるのをやめると告げる。「覚悟が決まったのかと思った」と言われ、ゆきは静かに返す。「私は、看護婦にならないという覚悟を決めました」。自分は人の生き死にに関わる仕事ができる人間ではない。「私自身のため、何より患者さんのため、看護婦にならないのが誠実だと」。そう言い残して去っていく。バーンズが手渡した問いに、ゆきは“辞める”と答えたのだ。

バーンズは、引き止めない。生徒の上に立っていた彼女は、いつしか傍らに降りていた。同じ場所に立ち、同じ方向を見て、同じ道を歩む――「師」の顔は、「志」を分かち合う同志の顔へと変わっている。自らの意思で道を選び直したゆきを否定せず、ただ、その背を優しく抱きしめる。続けることだけが正解ではない。辞める決断を誠実に選び取った人間がいる、と認める強さが、このハグには宿っている。

看護は、技術を身につけても、高い志があっても、患者に寄り添う気持ちがどれほど強くとも、ふと挫けてしまう厳しい道だ。だからこそ、優しい心と、折れない強い心と、仕事としての冷静さの3つが要る。観察する目を持ち、それらを兼ね備えた人物として、バーンズは描かれる。登場でこのドラマが俄然面白くなったのは、彼女が“看護とは何か”を立ち姿で体現しているからだろう。

エマ・ハワードとは、何者か?

登場の一瞬でこれだけを伝えるエマ・ハワードとは、何者か。イギリス・ロンドンの出身で、名門マウントビュー演劇学校に学び、チチェスター・フェスティバル劇場で開幕したライオネル・バートのミュージカルで主演に抜擢された実力派だ。

ウエスト・エンドやエディンバラ・フェスティバルの舞台を経て、現在は日本を拠点に活動する。NHK『しごとの基礎英語』やNHKワールド『Japanology Plus』のメインナレーター、NHK『英語であそぼ』への出演でも知られ、映画『ジャッジ!』(サラ役、2014年)、『ハゲタカ』(アンナ役、09年)、NHKドラマ『龍馬伝』『負けて、勝つ〜戦後を創った男・吉田茂〜』、フジテレビ系ドラマ『不毛地帯』、日本テレビ系『24時間テレビ48』内のスペシャルドラマ『トットの欠落青春記』(英語教師役)などに出演してきた。言葉の手前にある“佇まい”で、その人物の職業や矜持までを語ってみせるーーバーンズに、これ以上ふさわしい俳優はいない。

バーンズのモチーフは、日本で最初に看護婦を育てたスコットランド出身の看護教師、アグネス・ヴェッチ(1842年〜1942年)だとされる。「病棟を家庭のようにする技術をもっている」と評され、その思想を日本に持ち込んだヴェッチの姿は、そのままバーンズに重なる。

「道をはずれた人から、いつも道は生まれた。」ーー本作のキャッチコピーが指す“新しい道”を、りんや直美の半歩先で歩き、ときに守り、ときに突き放す。その背中が、二人の道しるべになっている。

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© 時事通信社Ž–

見上愛(競馬・第92回日本ダービーの表彰式。東京競馬場)

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おとといメイン

日曜劇場『GIFT』櫻井翔の演技に期待の一方、“違和感”も…伍鉄が選手を「突き落とした」シーンって、どれだ?

5月31日に第8話が放送された堤真一主演の日曜劇場『GIFT』(TBS系)。9話の次回予告では「最終回前」「最終章 前編」という文言も表示されており、今回はクライマックスとなるであろう日本選手権に向けての“ブリッジ”のような内容だった。

【画像】櫻井翔さんの出演シーン

いろいろなセリフが有機的につながっていて感慨深くなるし、今後の伏線にもなるのだろうとワクワクできたのだが……これまでも散見された違和感が、残念ながら今回も存在していたというのも正直なところだ。まとめていこう。

人香から「結婚は無理だと思うな」と言われてしまうほどに涼は「1人で決めていた」

※以下、『GIFT』第8話の内容に触れています。

第8話序盤で、車いすラグビーチーム「ブレイズブルズ」元エースの宮下涼(山田裕貴)は、強引かつ独善的なプレイをするエース候補の朝谷圭二郎(本田響矢)に対して、「1人で行けば選択肢は1つだ。2人で動けば何倍にもなる! 俺もそれを見失っていた時期があるからよくわかんだよ!」と声を荒げていたのだが、実際は涼も圭二郎と同じく、まだ「1人で決めていた」とも言える。

例えば、涼は記者の霧山人香(有村架純)に心臓の病気のことをまだ言えていない。「結婚は無理だと思うな」と唐突に言われたのは、第7話冒頭の結婚式の場で「結婚のメリット」を問われた時に、涼が「ちゃんと伝える」と返していたからだ。

人香から「お願いだから本当のこと言ってよ。寂しいよ」とまで言われても、涼は「なんかあったらちゃんと言うから」と返して、「勝とうな、試合」と拳を合わせながら約束するに留まっていた。とはいえ、第9話の予告では涼が倒れて搬送される場面があるため、人香が知る場面は必ず訪れるだろう。

涼と伍鉄は友達のように言い合える関係に

その涼が心臓の病気のことを言えた相手は、コーチであり宇宙物理学者の伍鉄文人(堤)だった。

涼が「ここまで一緒に来ちゃったじゃん。途中で降りるには、正直楽しくなりすぎた」などと告白したことと同じように、伍鉄もこの前に「以前の僕は孤立した惑星みたいなもんで、でも今は、まぁ重力に引き寄せられるのも悪くないなって」と口にしていた。2人は共にブレイズブルズというチームにいることが、かけがえのないものになっていたのだ。

涼は人香に恋をしているからこそ、心配をかけたくなくて、心臓の病のことを言えなかったのだろう。一方で伍鉄に打ち明けられたのは、もちろんコーチだからという以上に、共に「これまで孤独だったけど、今ではそうではなくなった」こともわかりあった「友達」になれたということもありそうだ。

特に、最後の涼の「2人で行けば、ですよ」といった言葉に対して、「なんだか都合のいい言葉の使い方ですね」などと、まさに友達っぽい距離感で言い合える関係は、とても尊く映った。

「つながっていく」言葉

そして、圭二郎も変わっていく。ブレイズブルズ最年少の坂東拓也(越山敬達)と共にライバルチーム「シャークヘッド」への対決に挑み、ハイポインターの谷口聡一(細田佳央太)に「1対1なら負けねぇよ!」と啖呵を切るが、「お前は涼さんに相応しくない」と一刀両断され、コーチの国見明保(安田顕)からも「連なる線、1つの流れを生み出すプレイをしないと、お前、一生勝てないぞ」と言われてしまう。

しかし、圭二郎と坂東の練習に、キャプテンの立川夏彦(細田善彦)、ミドルポインター中山好太郎(八村倫太郎)、ローポインターの李武臣(水間ロン)も参加する。その時の李からの「5人で行ったら5倍や」という言葉は、後に発表される伍鉄が考案した「涼を中心とした2つのラインと、涼のいない2人のライン」というバリエーションのある戦略および、それを発表した時の圭二郎の「2人なら選択肢は2倍、みんななら…?(涼が笑う)」という言葉につながっている。

また、伍鉄は「わりと寂しい」とこぼした時に、元妻の坂本広江(山口智子)から「大きな第一歩」「大きな伸び代」と言われていたが、それを「(涼の)バディには足りてねぇかもな。あいつは強ぇし速ぇし本物だ」と認める圭二郎へ、そのまま「口に出したら大きな一歩。それは伸び代です」と受け売りで言っていた。

振り返ると、本作はこれまでも誰かの言葉や行動が、期せずして他の誰かの価値観を大きく動かしたり、成長につながったりするという場面がとても多い。それは王道のスポ根らしい展開とはやや異なるため、人によっては「ブレている」「脇道に逸れている」という印象を抱かせてしまったのかもしれない。だが、キャラクターそれぞれの迷いや、それでも誰かの言葉や行動から答えを見つけようとしていく様が、『GIFT』では重要だったのではないか。

また、ローポインターの君島キャサリン秋子(円井わん)が、子どもをつくることについて、夫と「大変だからやめるっていう選択肢、俺にはないよ」「正直怖かった。でも、自分の可能性を狭めたくない」と話し合う場面も重要だった。これに対して涼は、心臓の病気を持ったまま選手権に挑むことに迷い、「後悔するんだろうな。すんげぇ後悔。どっちも怖いわ」と言っていた。人生の重要な選択肢で迷う人もいれば、迷わない人もいる。どちらもまた、美しく映ったのだ。

「突き落とす」という言葉には違和感も

一方で違和感を覚えたのは、宗像桜(宮崎優)のエピソードだ。ポストドクターの彼女は、伍鉄に公衆の面前で仮説を否定された「公開処刑」を世間に訴えようとする。

人香は宗像に「(ブルズのメンバーは宗像とは違って)突き落とされても、何度も何度も立ち上がった」と言い、後にも「ホワイトホール」(物質やエネルギーを放出する理論上の天体)に例えつつ「みんな伍鉄さんに突き落とされて、それでも抗って、立ち向かう」と言っていた。

しかし、伍鉄はブルズのメンバーに呆れられたり、素人が口を出すことを咎められたりする場面はあれど、「突き落とす」ような言動はほとんどしていなかったと思うのだ。宗像への仕打ちとの「対比」としては、納得できない言い回しだ。

もちろん、メンバーそれぞれは自身の困難はもとより、家族やアイデンティティーの問題に直面してきたので、人生という舞台においては「突き落とされた」という言い方はできる。伍鉄はその「どん底」にいたとも言える彼らを見続け、重要な問いを投げかけ、何かを気づかせ、激励し、そして前を向くきっかけを与えてきたのではないか。「突き落とされたみんなが、伍鉄さんと出会って再び立ち上がった」といった言葉の並びであれば、腑に落ちただろう。

とはいえ、人香が宗像に「負けた場所にただ落とすだけのこと。それはあなたの勝ちじゃない」「誰かのせいにするんじゃなくて、立ち向かってください」と言うことには納得できる。

宗像に対する伍鉄の「この仮説に未来はありません」「感情論は時間の無駄です」という発言は確かに無慈悲にも思えるが、客観的に見ると、おそらく本当に間違っているであろう仮説を「間違っている」と言っただけで、宗像はその伍鉄へ「ただ逆恨みをしているだけでは?」という見方もできるので、真っ当な主張だ。その宗像が、車いすラグビーという「好き」を見つけて戦ってきたメンバーの選手権を見て、どう変わるのかも注目だろう。

また、公式SNSでは、最終章において櫻井翔が日本車いすラグビー協会の理事長・柳原俊二役を演じることが発表された。実際にオリンピックでキャスターを務め続けた彼がどのように試合に絡むのかも、とても楽しみだ。

※「宮崎優」の「崎」は正式には「たつさき」表記です。

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© via Associated Press

FILE - Sho Sakurai, a member of Japanese pop music band ARASHI, listens to a question during an interview with The Associated Press in Tokyo on Sept. 17, 2020. Beverage maker Asahi Group Holdings — known for its Super Dry beer — will no longer air its ads featuring Junichi Okada, Toma Ikuta and Sho Sakurai, the company said Tuesday, Sept. 12, 2023, and there are no plans to sign singers, dancers or actors affiliated with Johnny’s. (AP Photo/Hiro Komae, File)

「卑しい身分の者がやるもの」、NHK『風、薫る』でフユが突きつけた“余裕を失った暮らし”のリアルに反響【ネタバレ】

見上愛、上坂樹里がW主演を務める連続テレビ小説『風、薫る』。田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社、2023年)を原案としたオリジナル作品で、激動の明治、看護の世界に飛び込んだ二人の“トレインドナース”を描く本作。

【動画】反響を呼んだフユと康介の夫婦シーン

第8週で侯爵夫人・千佳子(仲間由紀恵)の信頼を得たりん(見上愛)は、手術が怖いと本音を漏らす千佳子に夜通し寄り添い、手術にも立ち会う。その見学のさなか、りんの目を引いたのが、手術介助を担うベテラン看病婦・永田フユ(猫背椿)の手際の良さだった。

「好きでやってるわけじゃない」不機嫌でぞんざいな看病婦・フユの切実な背景

フユは10年のキャリアを持つ古株の看病婦である。誰より作業が速く、誰より多くの仕事をこなす。だが、その態度はぶっきらぼうで、患者にもぞんざい。いつも不機嫌そうで、怒っているようにすら見える。看護婦見習いたちが看護の勉強で得た知識から新しいことを提案すれば、これ以上仕事を増やしてくれるなとばかりにうっとうしがる。直美(上坂樹里)も率直に言う。「感じ悪いし、患者に対してぞんざいだけど、作業は速くて誰より多くこなしてる」。近寄りがたく、感じの悪い人物ーーフユは終始、りんたち看護婦見習いからそう思われている。

だが、第9週が丁寧にすくい上げていくのは、その“不機嫌”や“怖さ”の奥にあるものだ。フユは、この仕事が好きでやっているわけではないと言う。看病婦は当時、行き場のない人がなる職業で、「卑しい身分の者がやるもの」とされてきた。賃金は安く、それでも女ができる仕事がほとんどなかった時代の、ぎりぎりの選択である。お金がないために息子を10歳で奉公に出し、足を悪くして働けなくなった夫を養いながら、仕事を終えて帰宅したあと、夜遅くに洗濯などの家事をこなすーーフユはそんな日々を送っていた。「お金がないから、亭主が足を悪くして仕方なく、恥をしのんでこの仕事についたの」。その言葉には、生活に追われて余裕を失った人の切実さがにじむ。

それでも、フユは目の前の仕事を懸命にこなしている。あの卓越した手際の良さは、生まれ持った器用さなどではなく、長年の努力の賜物だ。驚かされるのは、多忙のなかでも家で食器や布を手術道具に見立てて練習しているらしいことだ。生きるために就いた、好きでもないと本人が言う仕事に、なぜそこまでするのか。責任感の強さだけでは説明がつかない。本当はこの仕事が好きなのではないか――そう思わせる何かが、彼女の手つきには宿っている。ただ、それを認める余裕すら、いまの暮らしは彼女に許していないのだ。

だが、その努力と技術は、医師たちにはまるで伝わっていない。それどころか、医師たちは看病婦と看護婦見習いを分断させ、フユの10年の経験は、座学で学んだ“学問”の前に軽んじられていく。仕事に対しても、足の悪い夫に対しても責任を負い続け、誇りすら奪われながら、なお目の前の手を止めない。その姿は、見ているこちらが、いつ押しつぶされてしまうのかと案じてしまうほどに張り詰めている。

フユの夫・康介(じろう)の言葉には、「なんか」が貼りついている。「私なんか」「看病婦なんか」ーー自分を、妻の仕事を、その「なんか」で削り取っていく。足を悪くして働けない情けなさが卑屈さに変わり、自分だけでなく妻の職業まで蔑む言葉になって表れる。役に立たない、価値がない、と自らを値引きする口癖は、聞いているだけで胸が締めつけられる。

そんな康介に、りんは言う。「フユさんは看護婦なんか、と言われるような仕事はしていません」。手術介助が一番上手なのはフユであり、それは自分には一生できないことだと。そして、どうかご主人はご主人だけはいたわって差し上げてください、ご自分のことも「私なんか」などと言わないでください、と。一人の人間を「なんか」で切り下げる物言いに、りんは明確に抗おうとしている。

ただ「気の毒な弱者」ではない。猫背椿とシソンヌじろうが立ち上げる夫婦の空気

この週がすぐれているのは、こうした人物を、ただ気の毒な弱者としては描かないところだ。りんに手術介助を教えてくれと頭を下げられても、フユは「お金くれたらね」と冷ややかに月謝を要求する。だがそれは、性格が図太いからでも、ずる賢いからでもない。本当に余裕がないのだ。好意で人に何かを分け与えられるだけの余白を、生活がとうに奪ってしまっている。タダで教えるという選択肢を持てないほど追い詰められているーーその切実さこそが、あの言葉を言わせている。親のいない直美だけが、それを見抜く。「卑しいんじゃなくて、本当にお金なくて切羽詰まってるって考えないの?」。

この複雑な人物に確かな手応えを与えているのが、猫背椿という役者の頼もしさだ。不機嫌で、怖くて、近寄りがたい。けれどその一挙手一投足の奥に、生活の疲れと、それでも崩れない芯の強さと、誰にも気づかれない努力の痕跡がにじみ出ている。台詞で説明されるよりずっと前に、観る者はフユの背負ってきたものを身体から受け取ってしまう。憎まれ口の裏に確かな自負があり、ぶっきらぼうな手つきに10年の経験が宿る。その厚みに、猫背は抜群の信頼感で説得力を持たせた。

猫背は、19歳で松尾スズキ主宰の劇団・大人計画に入団した。宮藤官九郎脚本作品の常連として知られ、『タイガー&ドラゴン』(05年)の谷中鶴子など、市井に生きる女性を演じさせれば右に出る者がいない。

朝ドラ出演は、保母を演じた『ちゅらさん』(01年)以来、実に四半世紀ぶりとなる。派手な見せ場がなくとも、立っているだけ、手を動かしているだけで、その人がどんな日々を生きてきたかを伝えてしまう――永田フユという、説明の少ない、それでいて陰影に富んだ人物像は、まさに猫背のキャリアが丸ごと注ぎ込まれたような役どころだ。夫・康介を演じるのは、『まれ』『虎に翼』に続いて朝ドラ3作目となるシソンヌ・じろう。コントで培った独特の間が、卑屈さの奥にある康介の弱さと愛嬌をにじませ、あの貧しくも確かな夫婦の空気を立ち上げている。

やがて、りんと直美の言動が、少しずつフユと康介の心を解きほぐしていく。フユは手術介助を教えてもいいと言いだし、これを機に看病婦と看護婦見習いは互いの知識を教え合い、協力し合うようになる。だが第9週がいちばん深く刻むのは、その和解そのものよりも、好きでもないと言いながら誰よりこの仕事に手をかけてきた一人の女性の、奪われてもなお残った凄みのほうだ。ゆとりさえあれば、フユは「好き」と言えたのかもしれない。

猫背が体現したその姿は、この物語に、働くことと尊厳をめぐる重い問いを静かに残していく。

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ユニクロ、松下洸平の日傘姿を投稿。男性起用に「時代の変化」の声も

ユニクロは5月29日に、俳優・シンガーソングライターの松下洸平さんが同社の遮熱傘をさす画像を公式Xアカウントに投稿した。

【画像】「ご、豪華すぎる!」松下洸平さんが投稿した小栗旬さん楽屋見舞い写真。松本潤さんの姿に「ダブル家康を見られるなんて」「並びがまぶしい」「ほんとに大河 濃いな〜」他にも大河俳優が…

ユニクロ遮熱傘、俳優起用に「時代の変化」

ユニクロは「昨年、東レと共同開発したユニクロの遮熱傘」「今年は約300gから240gへ軽量化。 価格も2,990円に」「この国で夏を過ごす全員に 持ってほしい傘ができました」「熱も光も紫外線も遮る」とつづり、松下さんの画像を投稿した。

以前は日傘が女性向けとして販売される傾向にあったことを踏まえ、松下さんの起用について「時代の変化を感じる」などXでは投稿に対し好意的な声があった。

松下洸平さん、『豊臣兄弟!』『光る君へ』に出演

松下さんは、本年度のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』に徳川家康役で出演している。また、現在放送している関西テレビ・フジテレビ系列のドラマ「銀河の一票」にも出演中で、幅広い活躍をみせている。

松下さんは、2019年度後期放送の朝の連続ドラマ『スカーレット』で戸田恵梨香さん演じるヒロインの相手役に抜擢され好評を博した。大河ドラマは他にも2024年『光る君へ』に出演した。

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© AFP=時事

松下洸平さん

『ONE PIECE』ルフィを“砂漠”で描いたらこうなる⇒「永遠に消えないで」「砂に描いてうまいのすごい」実写現場に尾田栄一郎登場

Netflix JapanがXで公開した実写版『ONE PIECE』の撮影現場の様子が話題になっています。

【動画】尾田さんが砂の上に書いた直筆イラスト

Netflix Japanは5月27日に「尾田栄一郎先生が Netflixシリーズ実写版 『ONE PIECE』シーズン3 撮影現場にやってきた! 砂の上には、ルフィとサイン まさかここは…アラバスタ!? 実写版の続報をお楽しみに」とコメントし、撮影現場の舞台裏を公開。

現場には、原作者の尾田栄一郎さんの姿もあります。ルフィ役のイニャキ・ゴドイさんが「尾田さん!お久しぶりです!」と日本語で話しかけ、抱きしめ合うふたり姿が映っています。

また今回、シーズン3は「アラバスタ編」に突入。砂の王国である世界観を撮影するため、撮影現場には砂漠のような光景が広がっています。

そこで尾田さんは、白い砂の上に指を使ってルフィとサインを直筆。

実写版『ONE PIECE』は、Netflixにて2023年8月31日に配信開始しました。しシーズン2は、2026年3月10日に配信され、現在シーズン3の撮影中です。

尾田先生も登場する映像に、ファンからは「砂に描いてうまいってすごいw」「アラバスタ超超超楽しみにしてる」「す、砂をください!!」「永遠にこの絵は消えないでほしい、」といったコメントが寄せられました。

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© ONE PIECE113巻書影

ONE PIECE113巻書影

堤真一主演ドラマ『GIFT』に「話が取っ散らかってない?」の声が上がるワケ。圭二郎は一転、真っ直ぐ告白?

著者: ヒナタカ
2026年5月26日 13:01

5月24日に第7話が放送された堤真一主演の日曜劇場『GIFT』(TBS系)。今回は素直に感動したという感想がネット上で多く届けられている一方、「話が取っ散らかってない?」「いろいろブレてる」といった厳しい声も聞こえている。

【動画】反響を呼んだ入浴シーン

とはいえ、複数の「父と子」の葛藤を軸に進むエピソードそれぞれは論理的で筋が通っており、描かれる悩みは普遍的で尊いものだと個人的には思えた。まとめていこう。

※以下、『GIFT』第7話の内容に触れています。

「本物じゃなくてもいい」ーー伍鉄の宇宙の哲学が昊を変えた

第7話では冒頭でのセリフが、今回描かれる複数の父と子の物語を端的に示していたと言えるだろう。

そのセリフというのが、ミドルポインターの中山好太郎(八村倫太郎)が結婚式で告げた「僕にとって、家族って正直、うまくいかなかった言葉でした」「逃げずにたくさん話して、家族を作っていこうと思います」。特に、ブレイズブルズのコーチであり宇宙物理学者の伍鉄文人(堤真一)と、その息子であり作曲家のマネージャー・坂本昊(玉森裕太)の関係は、第6話よりもさらに前進している。

昊が自身を「ニセモノ」と言い放ったのは、「曲を作っても、全部誰かの模倣に思える」ことが理由だと伍鉄に告白。さらに、第5話のラストでの試合を見て「誰のものでもない、自分だけの音が聞こえた」ものの「それっきり」で、「才能がないことは自分でもよくわかっている」とも告げていた。

対して伍鉄は、「父親って何をすればいいのやら」とつぶやき、「親と子の答えを出す式なんてない」と自覚して葛藤していたものの、自分が得意とする宇宙物理学に関する「哲学」が、本人が意図しないところで、昊にプラスの効果をもたらすのだ。

例えば、伍鉄は「変化の頂点(十五夜)にもっとも近い月」である小望月(こもちづき)を見ながら、「月に完成はなく、常に変化している」などと、まるで「絶え間ない変化」そのものを肯定しているかのような言葉を告げていた。

さらに伍鉄は、昊が生まれる前に母・広江(山口智子)に渡していた月の石は「本物なら個人で所有できない」ことを告げるも、祖母の光子(梅沢昌代)から「力をくれるお守り」などとして渡されたことで本当にお守りになり、「本物かどうかなんて、どうでもいいんです」とも言っていた。

加えて、伍鉄が「宇宙っていうのは、コツコツコツコツ考えて、ようやく辿り着いた答えが、ある日突然、全部ひっくり返ったりするんです。それでも探すんです。答えを。何度も何度も何度も何度も何度でも!」と言いつつ「適当というかただ叩いていただけ」はずだったピアノの演奏が、昊からは「今のいい旋律ですね」と言われ、彼が「置いてあるだけ」だったはずのピアノを再び弾き、そして作曲をするきっかけにもなっていた。

常に変わっていく、本物かどうかなんてどうでもいい、答えは何度も何度も探し続ける。それらは伍鉄にとっては、あくまで宇宙物理学における考え方だったのだろう。

だが、昊にとっては、それぞれがどうせ自分(の才能の無さ)は変わらない、作曲が模倣のニセモノだと思っていた。そんな、答えを探せずにいた彼を伍鉄が変えたのだ。また、伍鉄が偶然紡ぎ出した旋律から、昊が(模倣とは呼べないはずの)「自分だけの音」を見つけたように見えるのも感動的だった。

親と子に答えを出す式はないが、「見ていてあげる」というきっかけはある

伍鉄は「親と子に答えを出す式なんてない」と葛藤していたが、「親が見ていてあげる」「子どももまた親を見ていたい」ということが、その問いのヒント、あるいはきっかけではないかとも示されている。

例えば、シャークヘッドのコーチである国見明保(安田顕)は、「子どもも親に全てを話してくれるわけじゃない」「でも、ちゃんと見てあげれば、だんだんわかってきます」と伍鉄に告げていた。

さらに、元エースの宮下涼(山田裕貴)は、キャプテンの立川夏彦(細田善彦)から「家族から置いていかれるのが怖い」などと相談をされた時に、何も言えずにいた。しかし、後に立川が家族に避けられていると勘違いし、家族に対して「どうせ邪魔なんだろ! じゃあ置いてけよ!」とヤケになって声を荒げ、「(父親という立場から)逃げられたらどんなに楽か」とつぶやいた時には、涼はこう言う。

「子どもって見てたいんですよ。背中を。逃げる背中じゃなくて、どんなに遅くても、痛々しくても、歩く親の背中を見てたいんすよ。俺の親父はそれができなかった。でももし、あの時、逃げずに俺の前を歩いてくれてたらって、今でも、ずっと、そう思う」「かっこ悪くても、情けなくても、そういうの、全部見せてあげたらいいんすよ」

思えば、今回の伍鉄と昊の関係の前進、昊の大きな変化も「見てあげていた」からのものだろう。それはヒントまたはきっかけにすぎないかもしれないが、親と子という難しい問題の答えを出すためには大きな一歩になるのかもしれない。

圭二郎は「遠回しの告白」から一転、ストレートに告白?

さらに気になるのは、第6話では記者の霧山人香(有村架純)に対し「ラインのどちらにいるか」という抽象的な表現で「遠回しの告白」をしていたと思えた新エース候補の朝谷圭二郎(本田響矢)が、今回の第7話では一転して「ストレートな告白」をしていたことだ。

冒頭の結婚式に参列した圭二郎は、人香に対し「着てよ、ドレス」「(そりゃ着たいでしょと返されて)仕方ねぇな、じゃあ俺が結婚してやっか!」とあけっぴろげに言ってのけ、これに人香は「圭二郎さぁ、冗談でもそういうこと女子に言わないほうがいいよ」とたしなめる。

その冗談に聞こえる告白に涼も反応していたようだが、立川から振られた「結婚のメリット」という話題について、涼は「ちゃんと伝える」とシンプルに返していて、それは人香からは「わりといいかも」と好評だった。対して圭二郎の「一生愛す」という回答には「中二か」と軽くあしらっており、視聴者に「これは圭二郎よりも涼が優勢か?」と思わせつつも、今後の三角関係のもつれや関係の変化に期待を持たせるやり取りだった。

そんな恋愛模様も楽しめる第7話だったが、ブレイズブルズのチームとしての前進については、涼から「合宿みたいな仕上がりだったらまず無理だ」と言われたこと、シャークヘッドのブラッドリー(澤井一希)との「打倒シャーク」のコツを学んだこと、国見から伍鉄へ「選手も子どもと同じです(見てあげればいい)」という助言があるに留まった。

総じて『GIFT』は親子関係の変化や三角関係の恋愛模様が見どころにはなっているが、それらの悩みに対して問答を繰り返す場面が多い。特に伍鉄と昊の関係は第5話から連続してメインで描かれていたため、王道のスポ根ものとしての熱い展開を期待していた視聴者にとって、今回は特に「脇道に逸れた」印象もあったのかもしれないし、やはり「話が取っ散らかってない?」「いろいろブレてる」という厳しい評価につながっていたのだろう。

だが、続く第8話の次回予告では、涼の「エースになるには、お前は全てが足りない」、圭二郎の「お前だけのチームじゃねぇだろ!」というセリフがあり、2人は人香を取り合うだけでなく、選手としてのぶつかり合いがあることが示唆されていた。しかも、涼は「心臓の病気かもしれない」「俺、なんのために生まれてきたんだろうな」と絶望とも言える言葉も告げていた。こうした場面から、試合の盛り上がりだけでなく、それぞれのさらなる成長にも期待できそうだ。

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堤真一

NHK『風、薫る』仲間由紀恵のセリフ「おばさんのフリがうまくなるだけ」…年を重ねる多くの視聴者から共感

見上愛、上坂樹里がW主演を務める連続テレビ小説『風、薫る』。田中ひかる著『明治のナイチンゲール大関和物語』(中央公論新社、2023年)を原案としたオリジナル作品で、激動の明治、看護の世界に飛び込んだ二人の“トレインドナース”を描く本作。

【画像】「朝から号泣」と話題の仲間由紀恵さんの名シーン

第7週に始まった帝都医科大学附属病院での実習編を受け、第8週「夕映え」で大きな試練となる患者として登場するのが、和泉侯爵夫人・千佳子を演じる仲間由紀恵だ。

「生きたいと思うことは、恥ずかしいことではありません」千佳子が初めて吐いた弱音

千佳子は乳がんで帝都医大病院に入院してくる。がんは進行しており、乳房切除手術をしても助かる見込みは半分以下。医師たちは特別室で厚遇するが、千佳子は何もかも気に入らず、手術を受けずに退院すると言い出す。

看護の担当となったりん(見上愛)にも「女中なら足りてる」と取り付く島がない。検温も会話も拒絶。食事を問えば「なぜあなたにそんなこと?」、お通じについて尋ねれば「無礼者! 恥を知りなさい! 出てって!」。同僚たちと語り合うなかから「もし自分が患者だったら」と寄り添おうとしたりんは、かえって「気持ちがわかるなんて、たやすく言わないでちょうだい!」「思いあがらないで!」と逆鱗に触れてしまう。

常に着物も髪も綺麗に整え、昼間も床には入らず、広い特別室の隅の椅子にかけ、テーブルに向かって『源氏物語』を読む千佳子。脈をはかろうとするりんの手をはらい、体温計はそのまま女中に手渡してしまう。医師たちの頻繁な回診は病院の名誉のため千佳子を必死で引き止めようとするもので、千佳子の気持ちを汲もうともせず、見舞いに来る夫と息子には「ワガママ」「不機嫌」ととられるばかり。

窓の外をただ眺めて立ち尽くす後ろ姿から立ち上がるのは、武家の女としていかなる時も弱音を吐かず気丈に生きてきた人の佇まいだ。同じ場所に立ち、同じ方向を見てくれる者が一人もいなかったのだろう。ただでさえ広い特別室が、いっそう広く、寂しく見える。

そんな千佳子の固く閉ざした扉を、最初に押したのは「わかろうとしすぎない」言葉だった。直美(上坂樹里)に救われ、中庭で同僚たちと言葉を交わすうち、りんは気づく。家族や友人ではない自分が、患者の本当の気持ちをわかるはずがない。そう肚を決めたりんは、千佳子に伝える。「残念ながら私に奥様の本当のお気持ちはわかりません。看護婦見習いの他人です。ですから、ご家族のように気遣う必要もありません」。突き放すようでいて、看護婦としての立ち位置を引き受け直したこの言葉に、千佳子はようやく口を開いていく。

そこから語られるのは、祝言の日の夫の言葉だ。恥ずかしくて何も話せずにいる自分に、夫が「空が綺麗ですね」と言ってくれたこと。「空を綺麗だと言う人が夫で良かったと思った、よく覚えてる、こんな年になっても」。そして――「人って思ってるより変わらないものよ。子どもができたらもっと大人になると思っていた。その息子が一人立ちするころには、当たり前のようにおばさんに、おばあさんになると思っていたの。けれど、気持ちは変わらないのよ。大人のフリが、おばさんのフリがうまくなるだけで」。胸を失った自分で夫の隣にいるのが悲しくて、恥ずかしくて、それを口にするのも恥ずかしい――だったらいっそ何もせず、今のままの私で。

「死にたくない、生きたいと思うことは、恥ずかしいことではありません」。りんがそう返すと、千佳子は初めて弱音を吐く。「どうしてこんな意地悪な病がこの世にあるのかしら……どうして私が……」。武家の女と言いながら、少しも肚が決まらない、と。そんな千佳子を最終的に動かしていくのが、夫・元彦(谷田歩)の存在であり、そこに至るりんの働きかけだ。

“朝ドラ4作目”仲間由紀恵が演じてきたのは……

仲間由紀恵が華と気品で本作に持ち込んだのは、たんなる“難しい患者”像ではない。看護婦見習いたちに「看護とは何か」を否応なく問い直させる存在であり、りんにとっては避けて通れない試練そのものだ。

「人って思ってるより変わらないものよ」「大人のフリが、おばさんのフリがうまくなるだけ」――あの一節は、年を重ねる女性なら誰しもどこかで頷くだろう。仲間はそれを、声を張ることなく、むしろ気品をまとった姿勢のままで放つ。台詞ではなく、佇まいが先に語ってくる俳優だ。

仲間由紀恵が朝ドラに出演するのは、『天うらら』『花子とアン』『ちむどんどん』に続いて本作で4作目になる。

なかでも強烈な印象を残したのが、『花子とアン』(2014年度前期)の葉山蓮子だ。家の経済問題のため親の決めた九州の石炭王・嘉納伝助(吉田鋼太郎)と結婚させられた華族の娘で、やがて自分を家柄で見ない宮本龍一(中島歩)と出会い、命懸けの駆け落ちで“家”と“名前”を捨てる人物だった。

『ちむどんどん』(22年度前期)の比嘉優子は、ヒロイン・暢子(黒島結菜)の母であり、だらしなく借金を重ねる長男・賢秀(竜星涼)にばかり甘いと批判もされたが、それは沖縄という地域性と時代性のなかで、女性たちが背負わされてきた重さの裏返しでもあった。

家柄、嫁ぎ先、母としての立場――朝ドラのなかで仲間由紀恵が引き受けてきたのは、女性性をめぐる柵(しがらみ)や呪い、窮屈さと、それでもなお手放されない深い愛情である。千佳子もまた、その系譜にいる。「華族といってももとは武家、武家の女らしく潔く死にます」と言い切れてしまうほどに、自分の身を律する規範を背負った人。その規範ごと愛し、その規範ごと苦しんでいる人を、仲間は静かに、華のある姿で演じてみせる。

そして千佳子の心の奥に唯一触れていくのが、直美の言葉を借りれば「患者を怒らせ、笑わせ、心に触れる看護もできる」りんであり、もとは同じ武家の女だった、という符合も説得力がある。

自身ももとは武家の娘で、看護婦になることを母・美津(水野美紀)に「恥を知れ」と反対された――その武家の女としての誇りを誰よりも理解しているからこそ、りんは千佳子の矜持を頭ごなしに退けない。そして、それでもなお今は娘を応援してくれている母の存在を知っているからこそ、武家の女の規範の先に別の道がありうることも示せる。武家の女の誇りに敬意を払いつつ、その奥にもう一つの扉があると伝えること――そこに、千佳子の心に触れる鍵があった。

第8週、特別室のあの広さと寂しさは、これから何度でも思い出されるはずだ。

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仲間由紀恵さん

『まんぷく』『軍師官兵衛』などNetflixで配信、NHKの狙いは?“日本人気とは違う作品選び”に見る意外な“選定基準”

『連続テレビ小説「まんぷく」オリジナル・サウンドトラック 』川井憲次 (バップ)『連続テレビ小説「まんぷく」オリジナル・サウンドトラック 』川井憲次 (バップ)

NHKは5月20日、日本文化の発信とコンテンツの海外展開強化のため、大河ドラマや連続テレビ小説など過去のドラマ19作品を、Netflixで世界配信することを発表した。

第1弾配信の『軍師官兵衛』や『まんぷく』など6作品の選定から透けてみえるNHKの狙いはどのようなものだろうか。

【画像】岡田准一「最高やん!」松井玲奈「わーい!わーい!」世界配信に沸く出演者のコメント&Netflixで大ヒットの日本ドラマのカッコいいティーザーアートをチェックだ

『軍師官兵衛』『まんぷく』『昭和元禄落語心中』など6作品

今回の配信は2年半ぶりの再開にあたる。2022年にNetflixのCM付きプラン導入により、NHKがCMを流しているという誤解の恐れがあるとして、23年10月以降は番組提供を停止していた。朝日新聞によれば、再開後はすべてのプランでNHKのコンテンツではCMが流れない形で配信される。

Netflixでは2026年度中にNHKドラマ19作品を世界190以上の国と地域で配信する予定だ。6月22日からの第一弾の配信はその中から、『軍師官兵衛』『まんぷく』『東京サラダボウル』『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』『昭和元禄落語心中』『宙わたる教室』の6作品となる。

この並びに、ネットではそれぞれの作品ファンからも世界へ届くことについて歓迎の声が上がった。その一方で、日本での人気が高かったNHK作品とのズレを感じるという声も。

海外展開強化を狙うNHKの思惑とはどのようなものだろうか。『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などの著書があるエンタメライターの田幸和歌子さんに読み解いてもらった(以下、田幸さんの寄稿)

岡田准一さん『官兵衛』がタイミングとして最適な理由

第1弾6作品の選定からは、NHKの海外展開の狙いを単純な「日本での人気作の海外発信」とは違うロジックで読み解けると思います。

まず、世界市場の追い風。2024年に『SHOGUN 将軍』がエミー賞18冠を獲得して戦国時代ドラマの世界的需要が証明され、2025年11月にはNetflix独占配信『イクサガミ』(岡田准一さん主演)が大ヒットしてシーズン2制作も決まりました。岡田准一さん主演の戦国もの『軍師官兵衛』を出すタイミングとしては最適。

選ばれた作品にはほかにも共通項があります。

『まんぷく』は世界中で食べられているインスタントラーメンを生んだ日清食品創業者・安藤百福夫妻がモデルで、海外視聴者にとっての入り口が明確。

『東京サラダボウル』は多文化共生、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』はダウン症のある弟役をダウン症の俳優・吉田葵さんが演じる、日本ドラマ史上極めて稀(まれ)なインクルージョン作品です。

昭和元禄落語心中』はBL要素のある雲田はるこさんの漫画が原作で、アニメ化を経て海外でも認知されており、「落語」という日本独自の伝統芸能の見せ場も大きい。

『宙わたる教室』は定時制高校の科学部に集う多様な背景の生徒たちの物語です。

しかも、「ドラマ10」枠(※NHK22時台の連続ドラマ枠)の3作品(『東京サラダボウル』『宙わたる教室』『家族だから〜』)は、いずれもギャラクシー賞などの受賞作で、「賞作品で世界に出す」という選定基準が見えます。

NHKエンタープライズの企画者がそれぞれ制作統括として深く関わっている点も興味深いです。

来年以降の大河の作り手たちの過去作で海外反応を見る

最後にもう一点。『軍師官兵衛』のプロデューサーだった勝田夏子さんは2027年大河『逆賊の幕臣』(松坂桃李さん主演)の制作統括、『東京サラダボウル』を立ち上げた家冨未央さんは2028年大河『ジョン万』(山﨑賢人さん主演、19世紀の日米と太平洋が舞台)の制作統括という座組です。特に『ジョン万』は明らかに海外を意識して企画された大河。

これから世界に出していく作品をつくる作り手たちの過去作の海外での反応を見る、観測気球的な意味合いもあるのではないかと感じます。

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『連続テレビ小説「まんぷく」オリジナル・サウンドトラック 』川井憲次 (バップ)
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